著:ミッキー・フェール
真に包括的であることは、その文化における男性性と女性性のバランスが取れていることである
ジョンはフォーチュン500に入る会社の上級副社長です。
我々は、全社的な業績管理のための非公式・公式ツールとして同社にコーチング・システムを導入していました。
あるチーム・セッションの後、私は彼に呼ばれました。
そして彼は、このコーチング・システムで推奨されている一対一のランチ制度や、会議室やオフィスでの二人きりのコーチング・セッションについて心配していると打ち明けてきました。
彼が特に心配しているのは、女性の部下です。
これはジョンに限ったことではありません。アメリカ中の男性リーダーたちから同じような悩みが聞こえてきていました。
2017年に行われた、グローバルな視点からの性格と性差に関する実に興味深い研究があります(Schmitt DP1, Long AE1, McPhearson A1, O'Brien K1, Remmert B1, Shah SH1)。
この研究が打ち出した結論は、
性格の大半の側面(ビッグファイブ特性、ダークトライアッド特性、自尊心、主観的幸福感、抑うつ)と価値観に、性差が存在していること示す科学的証拠であり、
より平等主義的なジェンダー役割、ジェンダーの社会化、社会政治的ジェンダーの平等性が進んでいる文化において、それが最も顕著であることが示唆されたというものでした。
この結論は、男女の性格に見られる文化的な違いを説明するには、社会的役割理論では不十分であることが示されています。
一方、著名な神経科学者であるダフナ・ジョエルは、次のように述べています。
「私と私のチームが発見したのは、性差的な特徴が一人の脳内にすべて集約されることは稀だということです。
つまり、集団レベルで見られる性別的な脳の違いが、すべて一貫して一つの性別に典型的な形で現れる人はごくわずかだ、ということです。
言い換えると、これらの特徴がすべて、男性よりも女性に多く見られる形、あるいはその逆に、女性よりも男性に多く見られる形でのみ現れることは極めて稀だということです。」
ジェンダー研究という分野を深掘りしていくと、そこには多くの論争が存在しており、男女の本質的な違いに関する数多くの相反的な見解が衝突しています。
最も白熱した論争のひとつが、性別は2種類なのかどうかというものです。
一部の科学者は、男女という二元的な性別の概念は多くの人々の体験にそぐわないと主張しています。
自分が完全にどちらか一方の性別カテゴリーに属していると感じられない人も少なくありません。
また、この概念は科学的データとも合致しません。データによれば、ほとんどの人が独自の「ジェンダー特性のモザイク」を持っていることが示されているからです。
男女間の違いや、それぞれの本質的な特徴の根源を問うことは重要なテーマですし、
ジェンダーを二元的に捉えるべきか、それとも連続的なものと見なすべきか、これもまた、熟考すべき問いかけなのかもしれません。
しかしその一方で、私たちには対処すべき多くの実務的な課題もあります。
たとえばあなたが男性で、男女混合のチームを率いている場合、今の世の中において、集団として、そして個人として、彼らにどう向き合うかを決める必要があります。
あなたもあなたの組織も、何を適切とし、何を不適切とするかについて判断する必要があるのです。
ひとつの可能性として、ジェンダーなど考える必要もない、目指すべきはジェンダーフリーな文化だとする考え方もあります。
個々の貢献度に注目し、その能力やパフォーマンス、ウェルビーイングを重要視し、全員でゴールを目指せばいい、ジェンダーにとらわれる必要はないという主張もあるかもしれません。
しかし、残念ながら、これは非現実的で不可能だとする根拠は数多く存在します。
まず、私たちは何千年も受け継がれてきた文化的遺産がDNAに刻み込まれています。
私たちの集合意識や無意識には、これまで観てきた映画や芸術作品から、親や祖父母に聞かされてきた話から、男性と女性それぞれの強いイメージが残されています。
現代社会で目にする多くの事象に異論を持っていたとしても、これを単純に無視することはできません。
一部の人は、それを単なる偏見としてとらえ、人類の今後の発展には役に立たない考え方だと言うかもしれません。
しかし、ここが面白い点なのです。
人は特定のイメージやキャラクターに強く反応します。
これは世界中の人に共通することであり、映画監督、脚本家、俳優であれば誰もがそのことを理解しています。
「ヒーロー」のイメージは誰もが持っているでしょう。
『スター・ウォーズ』のフィンが成長する姿に心が高鳴り、
『グッド・ワイフ』のアリシア・フロリックへの思い入れで、母親や恋人というアーキタイプ(元型)に共感します。
「魔法使い」という普遍的なイメージに基づくと、『ハリー・ポッター』のダンブルドアは親しみやすい近所のおじいさんのようです。
そして、忘れてはいけないのがジェスター(道化師)、映画『バットマン』が公開されるまではジョーカーとして知られていたキャラクターです。
『ゲーム・オブ・スローンズ』のティリオン・ラニスターのように、人間の本質的で普遍的な魅力を表現しているキャラクターにも、私たちは古典的な親近感を抱きます。
これらのキャラクターに対するこの奇妙な親近感は何なのでしょうか?
それは何を意味しているのでしょうか?
カール・グスタフ・ユングによれば、人間の心理には、肉体の性別に関わらず、両性具有的な要素があると言います。(『分析心理学』みすず書房、1976年)
私たちの心理には女性性も男性性もあり、ユングはこれを「アニムス」と「アニマ」と呼びました。
彼はまた、心理には意識と無意識があると考え、彼が「集合的無意識」と呼んだものには、
まるでプラトニック(純粋な精神論的)な理想論のような、人のアーキタイプ(元型)が含まれており、全人類に共通する普遍的な概念であると考えました。
つまり、アニマやアニムスは個々人に固有の色合いを持ちながらも、同時に人類共通のアーキタイプ的な性質を含んでいるということです。
このように深く根ざしているアーキタイプを無視することは、たとえ望んでいても難しいものなのです。
では、ジョンと彼の会社の話に戻りましょう。
彼の会社では、ダイバーシティ促進の取り組みとして、管理職者レベルを始めとした組織全体での男女比を適切なバランスにしようとする努力が進められていました。
しかしこのジェンダーブラインド(性差への認識がない性中立的な)文化で女性を増やそうとした場合、何が起こるでしょうか?
その答えは明白です。
今日の多くの職場文化は、組織における男性優位が長く続いた結果として非常に「男性的」です。
そこで成功したいと願う女性は、男性的な特性を身につけなければならないのが現状です。
例えば、意見を強く主張する力、対立への耐性、高い競争心、そして感情を見せないことなどの特性です。
これらの特性が男性的だと言うのは、性差別に基づいているかどうかは議論の余地がありますが、結論として言えるのは、
「彼女が上がれば、会社も上がる」という研究結果が存在する理由は、女性が、組織にさらなる感情知能をもたらし、柔軟な発想、建設的な対立スキル、影響力を持つことにあるということです。
これが生まれ持ったものか、育まれたものかは、実務的な観点からはそれほど重要ではないのかもしれません。
現代社会でチームを率いる私たちにとって重要な問いは、
私たちの文化の中で、どのような男性的および女性的な要素やアーキタイプが働いているのか、そしてそれらがどのように私たちの役に立っているか、あるいは妨げているかということです。
女性が職場で極端に男性的な特性を身につけてしまったら、ダイバーシティや平等性の側面から見ると、私たちは目標を達成することができません。
ハイレベルなリーダーの役割に就くために、女性が本来の自分を犠牲にするのであれば、それは有能な女性を引き寄せたことにはなりません。
同じ特性をいくら増やしても、そこに利点はありません。
私たちが求めるべきは、新しい何かを加えることによる多様性なのです。
現代社会において男性性とはどのようなものなのか、現代的な男性性を定義するまで私たちは先に進むことができません。
今の文化で気に入らない点を、男性と女性が共に変えることしかできないのです。
では、どうやって始めるのか?
企業文化や個々の文化には、男性的な要素と女性的な要素が共存しており、そのバランスを意識する必要があります。
以下は、私が一緒に仕事をしたチームの例です:
男性的 (ヒーロー、王、探検家、おどけ者) |
女性的 (ヒロイン、女王、恋人、母親) |
決断力 | 安全な環境を提供 |
自己主張 | 共感 |
レジリエンス | 人間関係志向 |
競争力 | 協調性 |
あなたはこのリストに同意しますか? そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。
重要なのは、彼らが初めて自分たちの文化を男性性と女性性の観点から考え、そのバランスについて考え始めるきっかけになったということです。
皆さんもこうしたことを考え始めたいのであれば、次の5つの簡単なステップを推奨します。
- リーダーシップチームの人々を集め、その文化における男性的・女性的要素や行動をリストアップする
繰り返しになりますが、先述のリストが典型的な特性を表しているかどうかが重要ではありません。あなたやあなたのチームが男性性と女性性をどのように定義するかが重要です。 - どのような文化やリーダー像を望むのか
ヒーローやおどけ者を増やしたいのか、決断力や遊び心をさらに求めるのか、または、優しさや脆弱性が不足しているのか?
あなたのチームや文化において、男性性と女性性のどのようなバランスを望むのかを決めます。 - リーダーたちに対して、性格、チーム文化、組織文化における男性的および女性的要素の基本的な概念を教える。
- 適切なバランスを作り出すために、具体的な習慣や行動について合意する。
例えば、会議で意思決定をする前に、全員が1分間、中断されることなく自分の考えを述べる時間を持つことができます。
些細なことのように思えるかもしれませんが、協調性や「自分の意見を聞いてもらえている」という実感を人々に与えることができるため、大きな違いを生み出します。 - 月に一度、または四半期ごとに、合意された中核的でバランスの取れた行動を見直す。その際に、チームコーチのサポートを受けるのが望ましい。
男女混合のコラボレーションサークルやマスターマインドグループを組織全体で導入し、女性性と男性性のバランス、そしてチームワークに対する人々の体験について話し合う場を設け続けます。
陰と陽を無視するのではなく、どのように自分たちを表現したいのか、どのような文化に属したいのかについて実践的に考えていきましょう。
このようにして、私たち男性は女性との関わり方を変え、多様性、革新性、創造性の文化を築くことができるのです。
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NLPトレーナー ミッキー・フェール(Mickey Feher)プロフィール
著者より許可をいただき掲載しています。
https://www.psychologytoday.com/us/blog/on-purpose/202005/balancing-modern-masculinity-and-femininity-in-business
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